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ポール・ボウルズ PAUL BOWLES |
| [ 著作解説| 関連書解説 ] |
| 1910年、アメリカ・ニューヨーク州クイーンズにて誕生。父は歯科医。母方の祖先はドイツ・ユダヤ系だが、それを隠すような家庭環境に育つ。少年時代はエドガー・アラン・ポーの小説とディキシー・ランド・ジャズに傾倒。10歳で初めて作曲をする。18歳で「トラジジョン」誌にジェームズ・ジョイスらと並んで散文詩が掲載される。21歳で家出をしてパリへ渡り、ガートルード・スタインの寵愛をうける。彼女から、ジャン・コクトー、アンドレ・ジッドといった作家たちを紹介される。やがて、数々の舞台・映画・バレエ(オーソン・ウェルズ、ジョン・フォード、ジョン・ヒューストン、ダリらの作品)の音楽を担当、作曲家としての名声を確立する。28歳のとき、ジェインと結婚。当時からふたりの寝室は別々で、ボウルズはホモ・セクシャル、ジェインはレズビアンだったと言われる。すでに小説を書き上げていた彼女の影響でボウルズも本格的に執筆活動を開始。1949年『シェルタリング・スカイ』刊行、「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー・リストで9位になる。この頃からタンジールを拠点とし、南米、南アジアなどを放浪しながら数々の小説をしたためる。1960年代になると、アメリカよりビートニクの若者たちがボウルズを訪れるようになる。その中にはトルーマン・カポーティ、ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグらがいた。63歳のとき精神を病んでいたジェインが死去。70〜80年代にかけてボウルズは「世間から忘れられた伝説の作家」だったが、1989年、ベルナルド・ベルトルッチが『シェルタリング・スカイ』を映画化。世界で再評価される。1999年11月18日、タンジールにて死去。 |
| 日本語で読むことができるボウルズの著作 |
| 『優雅な獲物』 訳/四方田犬彦(新潮社)※絶版 | |
| 1989年刊行。 日本でも長らく忘れられた作家となっていたボウルズの短編を四方田犬彦氏が翻訳した短編集。前年の「新潮」ポール・ボウルズ特集で翻訳されたものに新たに追加したもの。いずれもモロッコという異国で起こる不条理な出来事を安易な感傷に流されることなく、ドライに描き出しているものばかり。『シェルタリング・スカイ』の原型とも言うべき短編群であり、クールなボウルズの文体を生かした名訳だけに文庫化もしくは復刊が望まれる。 所収作品:「遠い挿話」「優雅な獲物」「昨夜思いついた話」「ハイエナ」「庭」「過ぎ去ったもの、まだここにあるもの」「学ぶべきこの地」「時に穿つ」 | |
| 『シェルタリング・スカイ』 訳/大久保康雄(新潮文庫)※絶版 | |
| 1990年刊行。 もともとは1955年に『極地の空』として刊行(単行本)されたものだが、ベルトルッチによる映画化に伴い、訳者(故人)と親交のあった永井淳氏が手を加え新潮文庫に所収された。我が国でのボウルズ再評価のきっかけを作った四方田犬彦氏による解説つき。ボウルズの文体とはニュアンスが違うとの見方もあるが、日本語訳はこれだけである。しかし、映画公開にあたって安易に復刊(カバーも映画版のスチール写真)したせいか、現在絶版。ボウルズに関しては、白水社が6巻からなる作品集を刊行しており頑張っているが、新潮社が本作の版権を手放さない限り、私たちはいつまでもボウルズの代表作を書店で手にすることができず、待望の作品集にもなくてはならない傑作小説が所収されない、というのが現状である。速やかに復刻されるべき作品。 | |
| 『雨は降るがままにせよ』 訳/飯田隆昭(思潮社) | |
| 1994年刊行。 ボウルズが『シェルタリング・スカイ』に続いて書き上げた長編小説"Let It Come Down"を、ウィリアム・バロウズ小説の翻訳で知られる飯田隆昭氏が訳したもの。魅惑的な国際都市タンジールのインターナショナル・ゾーンを舞台に、アメリカ人青年がだましだまされて、徐々に目的を見失っていく様子が描かれる。主人公がドラッグと酒に溺れていくという設定ながら、曖昧さを感じさせない語り口と、全編を流れる焦燥感はボウルズ小説の醍醐味。またドラッグによる妄想さえも簡潔にわかりやすい言葉でつづられている点が、バロウズをはじめとするビートニク作家との大きな違い。また、ボウルズ小説のなかで最もミステリー色の強い作品でもある。こんこんと雨の降る異国・タンジールの不条理さを堪能できる。 | |
| ポール・ボウルズ作品集T『遠い木霊』 訳/越川芳明(白水社) | |
| 1994年刊行。 白水社による美しい装丁の作品集第1巻。ボウルズの短篇集"Collected Stories 1939-1976"から15篇を選んで、日本で独自に編纂したもの。あまりにも短い作品ばかりなので、ボウルズやモロッコ民話に興味のない人には退屈かもしれない。しかしちょっとした奇妙な物語に身を浸したいときには絶好の書。ボウルズのシニカルな視点が顕著に出た作品が多い。 所収作品:「コラソン寄港」「ブセルハムの役割」「数学師」「遠く木霊」「カフェの跡継ぎ」「ベニ・ミダルの風」「アンタイオスの森」「誰からも好かれる人間」「預言者」「稲妻に導かれて」「モフタールと死の夢」「なんど真夜中に」「イズリの水」「ラハセンとイディルの物語」「サンタ・クルス港を出てから四日目に」 | |
| ポール・ボウルズ作品集U『真夜中のミサ』 訳/越川芳明(白水社) | |
| 1994年刊行。 作品集第2巻。ボウルズの3つの短篇集から未訳のものばかりを19篇選んで翻訳したもの。1巻に比べ、ボウルズ中期から後期の作品中心。特に、主人公と父親との確執が描かれた「氷原」は、ボウルズ自身の少年時代を彷彿とさせて興味深い。すでにモロッコに居を移していたにもかかわず、作品の舞台はモロッコ、アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアと自由に世界を行き来する。 所収作品:「ヒュー・ハーパー」「1965年ニューヨーク」「鮮血色の部屋」「1932年マサチューセッツ」「ナイジェル卿宅での夕食」「1975年タンジール」「ちっぽけな家」「マダムとアハメド」「ブアヤドの執念」「真夜中のミサ」「なまくらな夫」「中身のないお守り」「クビになった男」「パソ・ソロにて」「ジュリアン・ヴリーデン」「氷原」「あなたはバスの中に蓮の莢を忘れましたね」「クルンテープ・プラザ・ホテル」「サハラ砂漠の掟」 | |
| ポール・ボウルズ作品集V『世界の真上で』 訳/木村恵子(白水社) | |
| 1993年刊行。 作品集第3巻。ボウルズ4作目の長編小説であり、彼が妻・ジェインと共にハネムーンで訪れた南米での経験が生かされている。「顔のない」人間ばかりを描くと言われていた、彼の作品としては珍しく登場人物たちが生き生きとして実に魅力的なのが特徴である(筆者の主観)。また、南米・熱帯雨林のうだるような暑さと湿気、ジャングルから吹いてくる風の匂いまでもが感じられるほど、生々しい描写にあふれている。ボウルズ入門書としておすすめしたい一冊であり、筆者が最も愛するボウルズ小説。 | |
| ポール・ボウルズ作品集W『蜘蛛の家』 訳/四方田犬彦(白水社) | |
| 1995年刊行。 作品集第4巻。ボウルズの長編3作目であり、本格的にモロッコの迷宮都市フェズを舞台とした作品でもある。ボウルズ自身「わたしが書くことを望んでいたのは、フェズの伝統的な日常生活を背景とした長編小説であった。20世紀の今日にあってもこの町のなかに中世が生きていたためである」と冒頭で言っている。めくるめくフェズの旧市街、迷路のような街並みを存分に味わえる、長い長い物語である。主人公のアラブ少年と一緒にオリーブの林を駆け抜けて、蒼く光るモスクを通り過ぎ、曲がりくねった石段を駆け下りる頃には、すっかりフェズの魅力にとらわれているという幸せな小説。 | |
| ポール・ボウルズ作品集X『孤独の洗礼/無の近傍』 訳/杉浦悦子・高橋雄一郎(白水社) | |
| 1994年刊行。 8つの旅行記と数々の詩篇からなる作品集第5巻。コスモポリタンであったボウルズの旅行記は、単なる観光客では見ることのできない現地の風習、民族の特徴などが盛り込まれていて面白い。また、旅を時には楽しみ、時にはうんざりしたりするボウルズの素顔がのぞける貴重なエッセイでもある。また、後半に収められた詩篇では、早熟の詩人としてのボウルズも見ることができる。 | |
| ポール・ボウルズ作品集Y『止まることなく』 訳/山西治男(白水社) | |
| 1995年刊行。 作品集第6巻は長大な自伝。自身の感情や主観をできるだけ抑えた、固有名詞の羅列が当時は酷評されたという。しかし、巻末の索引を見ればわかるように、あまりにも有名な文化人の名前がズラリと並ぶさまは、それだけでひとつの物語を私たちに空想させる。文学・音楽・映画・美術・建築・演劇などなど活動範囲の広かったボウルズだから、当然、交友関係の広さには計り知れないものがある。分野の違う人たちを当たり前のようにひょうひょうと並べて記すボウルズのやり方は、決して親切なものとはいえない。実際、彼は自伝を書く作業を好まなかったようだし、本作も記憶をたどるメモくらいにしか考えていなかったような記述もある。それがボウルズを今なお謎多き作家として知らしめている所以であることは確かだ。 | |
| ボウルズ関連書 |
| 『ポール・ボウルズ伝』 ロベール・ブリアット 訳/谷昌親(白水社) | |
| 1994年刊行。 疑わしい著述の多いボウルズ研究本のなかで、最も信憑性が高いとされている伝記。著者のブリアットはボウルズに会うためにタンジールを何度か訪れており、伝記を書くにあたり資料を必要としなかった点がボウルズのお気に召したようだ。またボウルズは彼について、文筆活動のみならず音楽のほうにも重点を置くというやり方が気に入っていると言っている。若き日のダンディで素敵なボウルズや彼を取り巻く著名人たちのフォトも美しくて楽しめる。タンジールへのボウルズへの著者の愛情にあふれた素晴らしい伝記である。詳細な注、年譜、作品一覧など資料性も十分。索引がないのが難点か。 | |
| 『友人が語るポール・ボウルズ』 ゲイリー・パルシファー編 訳/木村恵子、他(白水社) | |
| 1994年刊行。 とにかく波瀾万丈な人生を送り、現在もモロッコに健在のボウルズをとりまく、各方面の有名人たち。彼らが語るボウルズに関するエピソードの数々は、クールな彼の作品や自伝からはうかがいしれないような興味をそそられるものばかり。特にウィリアム・バロウズとフランシス・ベーコンのざっくばらんな対談は必読。ボウルズをしのぐほど個性的な面々の貴重な肉声が詰まっている。 | |
| 『現代詩手帖・特装版/ポール・ボウルズ』 監修/四方田犬彦(思潮社) | |
| 1990年刊行。 ボウルズ研究の第一人者、四方田氏による力の入った一冊。ここでしか読めない短篇や、ボウルズを愛する執筆者たちのエッセイ・論考は読みごたえあり。それに加えて、ジェイン・ボウルズの長編小説『ふたりの真面目なレディ』のさわりを読むこともできるという贅沢!またアメリカにおけるボウルズ評価を知る批評の訳も載っている。四方田氏解説付きの巻頭グラビア「ポール・ボウルズアルバム」もうれしい。 | |
| 『ユリイカ 1994・3月号/特集・ポール・ボウルズ』 (青土社) | |
| ボウルズの小説だけでなく、妻・ジェインとの関係、音楽活動、映画『シェルタリング・スカイ』考、ジェインの短篇全訳、などなど、他ではお目にかかれない貴重な資料の宝庫。特に白水社ボウルズ作品集の訳者陣による「ボウルズ主要著作解題」、ボウルズの民族音楽への傾倒ぶりがわかるエッセイ「極地でお茶を」、映画化に際しての秘話満載の「『シェルタリング・スカイ』とベルトルッチ」は涙もの。ユリイカのバックナンバーを常備している書店は多いので目にしたら迷わず買うべし! | |